序章

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「うあっ!?」 周囲の通行人から、甲高い悲鳴が湧き起こった。 けれど、誰一人動こうとはせず、限りなく他人事だった。 バランスを崩して、私の身体は踊り場のない急斜面を後ろ向きに落下していく。 客観的には一瞬のことかも知れないけれど、真っ逆さまに落下する私からはそれが永遠に続くスローモーションのように見えた。 まばらに歩く通行人がいるだけで、後ろには誰もいない。 (嗚呼、誰もがただ見ているだけ…親には疎まれ、会社では妬まれ…ああ、私ってこんな惨めに終わるんだ…)   地面に叩きつけられる瞬間、私を突きとばした女性が振り返りもせず、地下鉄に滑り込んでいくのが見えた。 途端、胸にどす黒い穴が空いたような気分になって更に絶望した。 …これは、ない。 非道すぎる。 なんてツイてないのだろう。 カレンダーなど持っていないが…まさか、今日は仏滅だったのだろうか? それになんて女だ、他人を階段から突き落としておいて、振り向きもしないなんて。 (他人1人の命を犠牲にしてまでも、そんなに我が身が可愛いかよ? デートだか仕事だか知らないが、死んだら末代まで呪ってやるからな、憶えとけ!) なにごともなく、今日で26歳を迎えるハズだったのに…まさか今日が人生最後の26歳になるだなんて、あんまりだ。 おおよそ衝撃とは名ばかりの激震が、身体を打ちのめす。 不運のどん底に叩き落とした女に向けて毒づいたのを最後に、私の意識はそこでブラックアウトした。
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