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暗闇の中、ぐるぐると視界が廻る。
嗚呼、堕ちているんだと本能的に理解できて涙が滲む。
やけに現実的な夢の中で、私は急速に廻りながら落ちていった。
◆
潮騒だろうか。
それとも、誰かの泣く声だろうか。
しばらく暗闇を落ちていくと、さざめきが聴こえた。
五月蠅いほど近付いたかと思えば、今度は耳を凝らさなければ聴こえないくらい遠くに遠ざかってゆく。
真っ暗闇の中で漸く底に辿り着いたのか、それ以上身体が落下することはなかった。
荒い呼吸を何とか整えて、自分の身体を強く抱き締める。
緊張と恐怖…極限の状態の所為か、身体は震えに歯が搗ち合わさる程に冷え切っていた。
不意、頬を水滴が濡らす。
ぱつぱつと強く打ちつける雨粒に納得して、リサは顔を歪めた。
なるほど寒い筈だ、雨が降っているのだから。
震える身体を丸めながら、リサは小さく嗚咽した。
寒くて寒くて、凍えてしまいそうだ。
何度か噎せて、涙を拭う。
暗闇に目が慣れ始めているようで、リサは何気なく視線を上げる。
そして、その先の光景に目を瞠ったまま硬直した。
そこだけ、暗闇を切り取ったかのように見知った景色を映していた。
血まみれで横たわるのは紛れもなく自分自身の身体で、割れた後頭部から流れ出した血液が、身体を浸すほどになっている。
即死だったのだと、すぐに理解できた。
涙は出たけれど、なぜか不思議と悲しくはなかった。
ポタリと、再び水滴が頬を弱く叩く。
そっと指先で拭いとると、それは独特の粘度と臭いを持っている。
しっかり慣れた目に映ったのは、血潮の朱だった。
「!?」
息を呑んで、上空を凝視する。
横たわる自身からは、ポタリ、ポタリと血の雫が滴っていた。
先頃まで雨と思い込んでいたのは、血まみれで横たわる自分の亡骸から降り注ぐ血潮だったのだ。
悲しみの感慨はなかったけれど、なんとなしに降り注ぐ血潮の一滴を受け止めたその時、異変は起きた。
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