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「おーい、潤希!!」
雑踏をも突き抜ける大きさに、思わず頭を抱え込みたくなる。
もうちょっと声量を抑えてくれよ、と何度言っても直らない。
他人のふりをしたくなるが、こちらに走ってくる以上そうもいかず、俺は仕方なく振り返った。
「なぁ、今夜暇だろう?
合コン行こうぜっ!!」
弾んだ声は予想通りの言葉を吐き出す。
「お前、こんな往来で叫ぶなよ…」
「はは、悪い悪い。
で、行く気ない?」
謝っても、こんなに誠意を感じられない奴はこいつだけなんじゃないかと思う。
まぁ、確かに今フリーだし。
バイトも休みだから暇だけど…。
決めかねて考えを巡らしているところで、
ふと…。
どうしてだか誰かの視線を感じて、振り返った。
「…………?」
しかし、振り返ったところで、そこそこに人通りのある大学内だ。
大方、立ち止まってて邪魔だと思われただけかもしれない。
普段は気にもしないそんなことに気づいたのはどうしてだろう?
「おい潤希?
どうしたんだよ、急に」
「ぁ、いや…。
なんでも__」
なんでもないと智也(ともや)を振り返ろうとして、見つけた。
驚いたように俺を見つめる女を。
視線が交わる。
雑踏の騒がしさが遠のいた気がした。
女は友達らしき他の女に肩を叩かれ、我に返ったように肩を跳ね上げた。
それから友達をすごい勢いで振り返ったと思うと、挙動不審気味に言い訳をしている様子だった。
やがて女は人混みに紛れて分からなくなる。
よくある光景のはずだった。
「潤希っ!!」
「うおっ!!」
完全に上の空で、背中をど突かれて我に返る。
ニヤニヤ顏で横っ腹を肘で突つかれる。
「なんだよ、良い人でも見つけたのか?」
「いや、そんなんじゃねーって」
「んじゃ、合コン行くな?」
「…………」
突然話を元に戻されて、一瞬返答に詰まる。
迷いの中に浮かび上がったのは、あの女の驚いた目だった。
「………ゃ。
悪い、今日はやめとくよ」
「…………。
そ。
じゃあ、暇なとき飲みに付き合えよ」
智也はひらひらと手を振って、キャンパスに入っていった。
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