視線

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地味な女だった。 眼鏡こそかけていなかったが、大学内では見かけないような真っ黒な髪を簡単に二つに結っているだけだった。 ただすれ違うだけだったら気にも止めないようなその女を、無意識に意識してしまうのはやはりあのときの目のせいだろうか。 知らない女だった。 広い大学内だからすれ違ったことくらいはあるかもしれないが、話をしたことなんて一度もない。 人通りのあるところで立ち止まって話していたとしても、それ以外に特に目立ったことをした覚えもない。 あえて言うなら少しばかり智也の声が大きかったくらいだけど…、あの距離では会話は聞こえまい。 もし智也の声量に驚いたなら智也を見つめるはずだし、どちらの声か分からなかったら交互に見るもんじゃないか? 俺に突き刺さる視線。 驚きに瞠られた瞳。 それらは何故か、信じられないものでも見るようだった。 .
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