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「一回見に来ればいいのに。おまえも絶対可愛いっつーから」
「ま、奥さんに似ればさぞかし可愛い素直な子だろうね」
「俺に似ても可愛い素直な子ですから!」
「はいはい」
そうなのだ。
私はまだ、慎の愛息子と対面を果たしていない。
それもこれも、その子が生まれたあの日、産婦人科までタクシーを走らせた私は、成田一家の前に姿を現さなかったからだ。
何回か奥さんのお見舞いにも行っていたし、保育器がどこにあるかも知ってはいた。(慎に何回も付き合わされたから)
しかし、産婦人科の前まできて、私は怖じけづいてしまった。
私は、慎の、しあわせそうな顔を見たくなかったんだ。
なんて醜い。なんて浅ましい。
それに気付いた瞬間、私は自分を乗せて走ってくれたタクシーを追い抜いて、病院の玄関とは反対方向へ走り出した。
こんなんで慎の子供に会えるわけがない。まして、こんな汚い思いを抱えたままその子を抱けるわけがない。
私は初めて、自分を恥ずかしいと思った。
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