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「わしもこの山を歩いて何十年にもなるが、あんなのは初めてだ」
銃に弾を篭め直しながら、祖父は首を傾げていました。
「また戻ってくるようならこんどこそ仕留めてやる」
そう祖父が言った時です。
入り口の方でなにか物音がしたようでした。
祖父と共に様子を見に行くと、
小屋の前に腹を割かれた犬が転がっていました。
正面の森の暗い闇の中では、ふたつの丸い目が光っていました。
「オチャカナ、オチャカナ。 ワタチノオチャカナヲカエチテオクレ……」
そのときの私は恐怖で頭が真っ白になり、声も出せずに震えていたと思います。
「おのれ」
大事な犬を殺された怒りが勝ったのでしょう。
祖父は猟銃を持って飛び出していきました。
夜の森に2回ほど銃声が響き渡ったあと、しばらく何も音がしなくなりました。
そして唐突に、森の奥から今も忘れられないあの声が聞こえたのです。
「オチャカナ! オチャカナ!」
今までと違う、興奮して叫んでいるような響きでした。
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