■ちくわ部 一年前。

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  季節は春、月は四月。 真新しい制服に身を包んだ俺は、校門の脇で大きく溜息をついた。 それは決してこれからの学生生活が憂鬱だとか公立を華麗に落ちてクソ遠い私立に来ちゃったことのためとかじゃなくて。 珍しい制服のせいで地元ではちらちら目線を感じたこととかテレビでしか見たことないような煉瓦造り風の校舎やら門やらに現実感が湧かないからでもなくて。 至極、単純に。 下駄箱に人が群がりすぎていて入れなかったから。 なんだよこの光景。 さすが生徒数だけはやたらめったら多い私立校、ありえねぇ。 クラス分けの紙が下駄箱前に貼ってあるからなんだけど……花壇の脇の掲示板はお飾りか。 そっちに貼ればいいのに。 一年生は入学式のときにクラス分けの紙を貰っているから、俺がどのクラスかは分かっていた。 そして三年生は別の校舎に教室があるためここにいるわけがなくて…… つまり、群がっているのはみんな二年生ということになる。 さっきからちらほら見える一年生は、萎縮している奴ばかりだ。 誰もあの掲示板を見る必要なんてないのに、上級生の塊を突っ切る必要はあるから当然とも言える。 へこへこと頭を下げながらそこを突っ切る奴もいるし、俺のように波が落ち着くのを待つ奴もいる。 どうでもいいけど、二年生にはそのへんに対する配慮が見当たらないな。 クラス分けの貼ってある場所から動かずに携帯弄ってんのとかいるし。  
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