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そいつはそんなことなど汲むわけもなく……黒板をちらと見てから、またこっちに向き直る。
「でー、マサキ君?」
「……マザキ」
間違ったまま覚えられるのも癪だ。
一応、訂正しておいた。
「あ、そうなんだ。ごめんごめん、読み方が何種類かあると分かんないねぇ」
納得したようにそう言いながら、悪びれなくけらけらと笑う。
確かに俺の苗字は『真崎』だから、おそらくは『マサキ』の読みのほうが多いだろう。
間違えられるのだって初めてじゃない。
だけどこいつの言い方は、いちいち癇に障る。
「俺もたまに下の名前をヒトシとか呼ばれるよー。仁義の『ジン』なんだけどねぇ」
んなもん聞いてない。
そしてフルネーム岡野仁らしいそいつは、無意識かなにかは知らないが俺のコンプレックスその2を刺激した。
「で、マザキくんの名前は?」
なんでフルネームなんか知りたがるんだ。
「……どうせあとで自己紹介させられんだろ」
つまり、今わざわざお前のために教えてやろうなんてつもりはないということ。
できるだけ線を引いて、拒絶しておかないと……こいつにペースを握らせちゃダメだ。
ところがその瞬間、後ろからいきなり誰かに髪をわしゃわしゃと乱暴にかき撫でられた。
「それを先に知っとこうってのが積極的な友達作りの第一歩でしょー! ほらほら、可愛い顔して毒吐かない!」
「ってぇ……やめろって!」
コンプレックスその3を言葉で踏み付けながらいきなり襲いかかってきたそいつを振り払う。
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