3人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「栗ちゃん」
今度は違う声に呼ばれ後ろを振り向いた。
「叔母さん」
そこには小綺麗な女の人が優しく微笑を作り立っていた。
彼女は後ろに束ねていた髪をほどきながら
「疲れたでしょうから奥でおやつにしましょ 桜餅も出来上がったところだし」と気を遣ってくれた。
桜餅。その言葉に心が踊る。
「有り難う御座います」
奥の部屋へ行くと職人達が和気藹々と何やら話をしていた。
古能美屋の御店は小さいのだがそれは店内だけであり建物自体は四階建て。
二階は叔父と叔母の部屋に私の部屋があり三、四階には職人達の部屋があるのだ。そこで皆寝泊まりをしている。
一階の奥の部屋は小さなリビングになっていた。
「お、栗ちゃん、お疲れ様」
「お疲れ様です」
そこにいた三、四人の職人達が口々に言うので私は会釈をした。皆、腕の立つ素晴らしい職人達ばかりだ。それでいて優しい。
「はい、栗ちゃんの好物の古能美屋の桜餅」
お茶と一緒に頂いた。
塩漬けされた桜の葉――では無くて桜の葉に似た食用の葉に包まれた桜色のお餅。
「そういや俺は昔からこの桜餅と同じく道明寺粉派だったな」
「そうそう、焼皮の桜餅には吃驚させられたよ あっちも旨かったけれど」
職人達がまた会話を始める。世間は暗いけれども私の周りにはこんなに明るい家族が居ることをいつも幸せに感じている。
ああ、私はなんて幸せ者なのだろうか。
「栗ちゃんは首都に行ったときに初めて食べたって言ってたよね」
急に話を振られ一瞬思考回路が迷子になった。
「あ、はい」
「どうだった?」
「美味しかったですよ 甘過ぎないのでとても食べやすくて けれど……私は家の桜餅が好きです」
そりゃそうだ。と。
なんせ古能美屋の桜餅は世界一だからな。と付け加えて口々に賛同の声が飛び交った。幸せを感じた。
最初のコメントを投稿しよう!