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母さんのお腹に居たときから、俺の成長速度は人とは異常なほど遅く、通常の6倍もの時間をかけた。顔や体は子供でも、何年も経てば精神年齢だけが待ってくれない。小学校低学年にしか見えないのに、社会のことを十分理解できている。そんな子供なんて、嫌だと思いながらも自分のことだから受け止めることしか出来なかった。
一般に思春期という頃、俺が生まれて14年目の春になっても、俺は家の庭先で、父さんの吹くシャボン玉を見ているだけだった。
垣根の向こうを歩いていく女学生に恋心を抱いても、決して同じ感情の笑顔を向けてはくれない。諦めるということを嫌でも教えられた瞬間だった。
母さんが俺を生んだのは、俺を妊娠して、5年4ヶ月目だった。
最初はこのまま妊娠していると、母さんに負担がかかると医者に中絶を勧められたらしい。成長の遅い俺にとっては、そのチャンスが何度もあった。それでも、私の子供だからと、当時19歳の母さんは言った。
父さんは半ば母さんの意見には反対していた。当然、人が生まれてくるとは思わなかっただろう。生れ落ちてからも、やはり成長速度の遅れ方は変わることもなく、同じ年に生まれた近所に住む子供たちはどんどん先に学校へ上がっていった。
俺が、漸く小学校に入った頃は、35年も後に生まれた子供と同じ年に見えた。そして、皆俺より先に卒業し、大人になっていった。
『親というのは、子供より先に死ぬものだ』
と誰かが言っていた。でも、親から見た子供は大人になっても子供に違いない。自分の場合は違う。
『子供のときに親は死ぬ。』
子供が大人になって死ぬことは無理なんだ。先に父さんが死んだ。周りから見た俺はまだ7歳で何も知らない大人は、同情の声をかけた。が、俺を知っているクラスメートだった大人たちは、いつまでも大人にならない俺のせいだと口々に言っていた。
俺がやっと9歳になったのは、それから12年も後だった。
母さんが心臓を患い、寝たきりになった。54年もすれば、何もかも分かりすぎていた。もう、これが家族といるのが最後だと、額を撫でる母の手が滑り落ちた。
どんなに強く握っても、二度と握り返してこないその手を…俺はずっと握り締めていた。
あれから48年。俺が生まれて102年が経ち、外見は漸く17歳といったところだ。
俺は公園のベンチに座りぼんやりしていた。
遠くから呼ぶ声が聞こえる。
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