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いつの間にか、公園は街灯だけの明るさになっていた。
噴水につけられたからくり時計は、9時になろうとしている。泣きつかれてベンチに寝そべっていた千桜は、誰かに起こされた。その声は、家出娘を探しに来た父親でも、大好きな新でもなかった。
目を覚ました千桜の目に映ったのは、和服を着た白髪の老人だった。
「お嬢さん、こんな夜中にお一人では危ないですよ。」
老人は口元を上げてニイと笑った。老人の右目は暗くてよく見えなかった。その顔に対して、千桜は別に恐怖心を抱くことはなかった。それどころか、逆に話を聞いて欲しくなった。千桜は、体を起こすこともなく、再び目を閉じると無意識に喋り始めた。
「おじいさん。
」
「ん?」
「おじいさん…私、大人になりたくないの。どうしたらこのままでいられるかな?」
「何で大人になりたくないんだね?」
老人は優しく返事をした。
「私の彼…あっ、私が勝手にそう思っているだけなんだけど…。」
老人は千桜の頭側の空いているところに腰を下ろした。
「彼凄く若いの…、本当は100歳以上にもなるんだけど、私と変わらないほど若く見えるの。」
老人は千桜の独り言のように表へ出す気持ちを静かに聞いている。
「あなたは、彼の年を気にしているのかい?」
「ううん、年なんてっ!…全然と言ったら、嘘になるけど…でも、私は彼が好き。新さんが凄く好きなの。」
老人は優しく微笑む。
「そうかい。その彼は君にとても愛されて幸せだね。」
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