夜の公園

2/3
前へ
/26ページ
次へ
いつの間にか、公園は街灯だけの明るさになっていた。 噴水につけられたからくり時計は、9時になろうとしている。泣きつかれてベンチに寝そべっていた千桜は、誰かに起こされた。その声は、家出娘を探しに来た父親でも、大好きな新でもなかった。 目を覚ました千桜の目に映ったのは、和服を着た白髪の老人だった。 「お嬢さん、こんな夜中にお一人では危ないですよ。」 老人は口元を上げてニイと笑った。老人の右目は暗くてよく見えなかった。その顔に対して、千桜は別に恐怖心を抱くことはなかった。それどころか、逆に話を聞いて欲しくなった。千桜は、体を起こすこともなく、再び目を閉じると無意識に喋り始めた。 「おじいさん。 」 「ん?」 「おじいさん…私、大人になりたくないの。どうしたらこのままでいられるかな?」 「何で大人になりたくないんだね?」 老人は優しく返事をした。 「私の彼…あっ、私が勝手にそう思っているだけなんだけど…。」 老人は千桜の頭側の空いているところに腰を下ろした。 「彼凄く若いの…、本当は100歳以上にもなるんだけど、私と変わらないほど若く見えるの。」 老人は千桜の独り言のように表へ出す気持ちを静かに聞いている。 「あなたは、彼の年を気にしているのかい?」 「ううん、年なんてっ!…全然と言ったら、嘘になるけど…でも、私は彼が好き。新さんが凄く好きなの。」 老人は優しく微笑む。 「そうかい。その彼は君にとても愛されて幸せだね。」
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加