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「ソウ、あとどんくらいで終わりそ?」 隣の席で同期の瀬野泰斗が伸びをしながら尋ねる。 時刻は午後8時を回ったところ。 この仕事は特に急ぎじゃないから今日はそろそろ切り上げよう。 「んー、あと10分。」 「終わったら飲み行こ。煙草吸って待ってる。」 自慢できることではないが、俺は友達が少ない。 会社の人間で個人的に飲みに行くのなんて泰斗だけ。 それが分かっているから、泰斗の俺に対する誘い文句の文末はいつも”?”じゃなくて”。”だ。 「ん。いいよ。」 パソコンとの長時間に渡る睨めっこのせいで乾いた目をしばたかせながら、キリのいいところまで仕事をやっつけにかかる。 工藤創士。26歳。 仕事は商社の営業。 成績まあまあ。 彼女なし。 取り立てて何の不満もない毎日。 何て言うか、水彩画みたいだ。 確かに色はそこにあるのに、全てが淡くて。 悪くは、ない。
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