終焉終演

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不自然な白い空間に金属音が響いた。 タイル張りの床をつつ、と滑る小振りなカギは積み上げられた雑誌に当たり、止まる。 「……」 検閲の為所々マジックで塗りつぶしてある雑誌に読み残しは無かっただろうか? しばし思いを巡らせるも、割とどうでもいい事だと気付き考えるのを辞めた。 出ようか? 悩む。 窓すら無く大きな換気扇の音だけが地鳴りのように絶えず響くこの部屋。 ここで僕は終わりの筈だった。 学芸会のような黒く薄手の衣を羽織った、多分真っ当な公務員に『死刑』だと告げられたのに。 色んな事を考え反省せよと云われた僕は、空気まで白く濁ったこの部屋で色んな事を考えたのに。 心から反省しようと思い出来るだけ深く考えた僕は、まだ反省出来ないでいたのに。 1ヶ月ほど前から拘置所内は殆どの音が消えていき、とうとう今日全ての音は無くなった。 じんとした沈黙。 息苦しい白。 毒々しい検閲の跡。 何が起きたか、なんて分かっている。 検閲は僕の事件だけを乱暴に塗り潰してあっただけだから情報は入っていた。 死刑はすぐに執行されないと知ったのは割と早い時期。 2~3年の猶予。 それが僕の寿命。 それで良かった。 しかし。 目の端に申し訳程度に此処から出る為のカギが主張する。 困った……それが正直な感想だった。 廊下にある採光の為の小さな窓からは、チラチラと光が廊下で踊る。 僕はカギを拾った。
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