プロローグ

2/4
前へ
/113ページ
次へ
世界は微睡んでいた。 自身と世界の境界が曖昧で、何処からが世界で、何処からが自分かが分からない。 まるで暗闇の深海に沈溶け込んでいたような感覚。 ふと見上げると、光りが頭上に見えた。 実際どちらが上で、どちらが下か分からない。 『見つけた』 鈴のような美声が響く。 まるで、その声に引かれるように光りに体が進んでいく。 光りの中から、しなやかな腕が伸びて来る。 何が何だか分からない。 いや―― 自分が誰かも…… 自分が“何”なのかも分からない。 ただ本能に従って腕を伸ばす。 光りの中から見える手。 それは、まるで迷子の子供に差し出される母の手のようにも 地獄の底から救い出す神の手のようにも 魂を騙し取る悪魔の手のようにも見える。 纏まらない思考を破棄して、とにかく腕を伸ばした。 そして、麗しい手を握りしめる。 『フィッシュ』 美声は何故か淡々とした口調でそう呟いた。 いきなり視界が暗転――いや光転すると、光り輝く世界に“墜ちていた”。
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!

628人が本棚に入れています
本棚に追加