628人が本棚に入れています
本棚に追加
世界は微睡んでいた。
自身と世界の境界が曖昧で、何処からが世界で、何処からが自分かが分からない。
まるで暗闇の深海に沈溶け込んでいたような感覚。
ふと見上げると、光りが頭上に見えた。
実際どちらが上で、どちらが下か分からない。
『見つけた』
鈴のような美声が響く。
まるで、その声に引かれるように光りに体が進んでいく。
光りの中から、しなやかな腕が伸びて来る。
何が何だか分からない。
いや――
自分が誰かも……
自分が“何”なのかも分からない。
ただ本能に従って腕を伸ばす。
光りの中から見える手。
それは、まるで迷子の子供に差し出される母の手のようにも
地獄の底から救い出す神の手のようにも
魂を騙し取る悪魔の手のようにも見える。
纏まらない思考を破棄して、とにかく腕を伸ばした。
そして、麗しい手を握りしめる。
『フィッシュ』
美声は何故か淡々とした口調でそう呟いた。
いきなり視界が暗転――いや光転すると、光り輝く世界に“墜ちていた”。
最初のコメントを投稿しよう!