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初めて見つけた自分自身の持物に輪は思わず駆け寄った。取り上げてみると、それは確かに輪のスニーカーだった。有名なブランドのもので、つま先に描かれた星がいい感じのアクセントになっているオシャレなスニーカーだ。
それにしても、靴がここにあるというのはどういうことだろうか?
輪はここに自分自身で来たということか?
いや、それは違う。そんな記憶はない。
そもそも、昨日は……
「あれ?」
そこまで考えて、ふと自分の中にある"空白"に気づいた。
昨日の記憶。校長室をでた後からの記憶が、ぽっかりと空いていた。
必死に思い出そうとするがダメだった。そこだけが、なにかノイズがかかったように不鮮明だった。
「なあー」
二つの満月を持つ猫が一声あげる。その鳴き声は何故か少しだけ悲しそうに聞こえた。
その時、ずきりと、鋭い痛みが頭を横切った。急激な目眩に襲われる。足元がふらつく。その場に立っていられない。
ドアに手をついて崩れ落ちていく輪。その手が冷たくて硬い何かに触れた。
ドアノブ。
捻って開くタイプの丸いドアノブを掴かみ、輪はその体をなんとか支える。
だが、持ち方がまずかった。
崩れ落ちないよう咄嗟に掴んだドアノブを、輪は気づかぬうちに捻っていた。
さらに自重を支えられない輪の体は、ドアに向かって倒れこむ。
鍵は、掛かっていなかった。
必然、ドアは自身の役割を果たし、外側へと開いた。
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