283人が本棚に入れています
本棚に追加
「まったく、騒がしい人達だねえ」
そんな、ため息混じりの声が足元から聞こえてきたのは、その時だった。
輪は息をのみ、向けていたほうとは逆の向きに顔を向けた。
そこにはいつのまにか一人の人間が、まるで最初からそこに居たかのように、そこに居ることが当たり前であるかのように座っていた。
「ーーーーっ!?」
輪はすぐに体を起こし、警戒体制に入る。
今の今まで気づかなかったその存在。
今の今までなかったその気配。
輪の全身に、ゾッと怖気が走った。明らかに人間技ではない。
「あんた、何……だ?」
「"なんだ"とは失礼な。れっきとした人間だよ」
そういって、その"人間"は鼻を鳴らし、輪の方へと顔を向けた。
まるで作りもののように整った顔立ち。女のようでもあり、また男のようでもある。
肩までの髪がよけいにその性別をわからなくしている。それに、黒いコートをきているため胸の膨らみや、全身の体型などで判断することもできなかった。
声も女性にしては低く、男性にしては高い。つまり、判断がつかなかった。
輪がその"人間"を警戒し観察していると、なにを思ったかおもむろにその顔を近づけてきた。
「ーーなっ!?」
驚いて下がろうとするも、輪がいるのはベッドの上。殆ど身動きできないまま、数センチのところまで顔が近づけられた。
「ほら、君と違う部分などありはしないさ。構成要素も君と全く同じ。酸素、炭素、水素、窒素、カルシウム、リン、イオウ、カリウム、ナトリウム、塩素、マグネシウム、鉄、フッ素、ケイ素、亜鉛、ストロンチウム、ルビジウム、鉛……ん?どうした、素っ頓狂な顔して」
「え、あ、いや、だから、顔、近くね?」
「ふむ?」
そういって自分の顔と輪の顔の距離を目ではかり、触れそうな唇に視線を移してから、これまた驚くほどのスピードで顔を引き離した。
最初のコメントを投稿しよう!