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「おっと、これは失礼。君のファーストキッスを奪ってしまうところだったね」
ニヤリと、意地の悪い顔で笑い"人間"は言った。
「キスぐらいしたことあるわ!」
と、言おうと思ったが、すんでのところで踏みとどまる。危うく相手のペースに乗せられてしまうところだった。
べつに図星をつかれたから思わず否定しようとかそんなんではない。
心に生まれた動揺を隠すために、輪はべつのことを口にする。
「あ、あんた誰なんだよ」
「そう、その質問は正しい。"なに"ではなく、"だれ"こそが人間に対する正しい質問であり疑問だ」
うんうんと頷きながら、あんがい理解力があるなとかなんとかつぶやいている。そんな様子を黙ってみていると、そいつはイキナリ自己紹介を始めた。
「じぶんは、人間間人(ひとま まと)と言う。この学園の三年生。舎章は黄色だから君と同じだね、六道輪君」
ーーよろしく。
そう言って差し出された手を、簡単には握れなかった。その存在から染み出る得体の知れない気味悪さが、手を握ることをためらわせていた。そもそもなぜ輪の名前をしっているのだろうか。
「なんだね、君はもしかして女の子にはさわれないとかいうチキン君なのかい?」
先程と同じイヤラシイ笑みを浮かべながら、間人はホレホレと手を突き出してくる。
こいつ、女なのかという驚き半分、誰がチキンじゃという意地半分で、輪は間人の手を握った。
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