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その瞬間、身体の中を何かが這いずり回るような、あるいは全身をーー内蔵を含めた全身をーー舐めまわさせれているような、そんな怖気の走る感覚に陥った。
咄嗟に、握っていた手を振りほどこうとする。
だが、相手が許してくれなかった。ギヂリと、女とは思えないほどのちからで間人は輪の手を握っている。
ーー犯されている。
その表現こそがピッタリの感覚だった。嫌悪感と不快感が同時に身体を駆け巡る。吐きそうになって、嗚咽する。
だが、そこまでして、間人は自分からその手を離した。
吐き気が急速におさまり、不快感だけが取り残された。
輪は急いで手を引っ込めた。
そして、精一杯の抵抗を含め、間人を睨みつける。
だがそんな輪を横目に、間人はあの笑みを消さない。強者の余裕。あるいは、支配者にのみ許された権力(ちから)の表出。
心地よかったはずの空間は、いまや泥沼のように粘りつき虫暑い劣悪な環境へと変貌していた。
「だいーぶ、弄られたみたいだねえ」
目の前の"人間"が呟く。
「弄られた?」
「ああ、でも今の段階では大きな問題はないよ」
「なんの話をしてる?」
「君の知らない話さ。例えば、人智を超えた力の話とかね」
「人智を超えた力……?」
こいつ大丈夫か?
そう思いかけた時、不意に昨日の話を思い出した。
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