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「あ……」
立ち去ろうとする雅人の背中を見て、これでいいのか、このままでいいのか、と誰かが頭の中で囁いた。
「?」
雅人は背後に何か微弱な抵抗感を感じて振り返ると、凛が雅人のシャツのはしっこを雛鳥に触れるようにそっとつまんでいた。
「……」
今にも消えそうな、戸惑いと不安を隠しきれない凛。
人差し指と親指にきゅっと力が入り、摘んだ本人がここからどうしよう、といった様子で視線をさ迷わせていた。
「――――挨拶に行こうかと思ったけど、まだこの部屋片付いてないし、玄関はあとの三人に任せよう」
「雅人……」
凛は、はぐれた母親を見つけた迷子のような表情を見せた。
が、すぐに素早くターンして、散らかった私物の山に向き直る凛。
「ああ、こっちも人手が欲しいからね」
棚からあぶれて机に置かれていたCDを無造作に手に取ってから、雅人に背を向けたまま話し続ける。
「それにしても、お前いつか女にダマされるぞ」
「そんときは、俺の性分なんだと思うよ」
「……雅人って、本当にバカだな」
「男はバカな生き物なんだよ」
「そうかい………………ま、ありがと」
「何か言った?」
「べっつにぃ」
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