「いただきます」は忘れずに

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三時間目の数学が終わって、昼休み。 イブキは後ろを振り向く。 そしていつものように、突っ伏してノートによだれの染みを作っている友人を確認。 今日はノートを開いていただけましか、と思いながら、授業中ずっと安らかな寝息をたてていた優芽を揺り起こす。 「優芽、お昼にしましょう」 「んあ……もうちょっと寝かせて……あと5時間ぐらい」 「それでは学校が終わってしまいます」 もし、優芽が赤点をいくつかとったところで、将来有望な発明王を学校側も落第にはさせないだろうというのがイブキの考えである。 そして、そんなVIP待遇の立場であることを微塵も感じさせない、この能天気な友人はやはり大物だとしみじみと思った。 優芽を起こすため、イブキは持参弁当をとり出して開ける。 「優芽がこの前気に入っていた卵焼きがありますよ」 「たまごやきっ!?」 超倍速再生映像で見たさやえんどうの発芽みたいに、優芽がガバッと起き上がった。 「ちょーだいちょーだい! 卵焼きちょーだい!」 「その前に、涎を拭いて下さい」 「うー。ゴシゴシ……。よし!いただきますっ!」 クリスマスケーキを前にした子供のようなテンションで、優芽はイブキ手製の弁当に箸を伸ばす。 ゴシゴシって口に出していいますか、とか、その箸は私のです、とか、色々言いたいことはあったけどとりあえずスルーした。 自作料理を喜んでくれる人の邪魔をするのは野暮というものだろう。
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