「いただきます」は忘れずに

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卵焼きを口に入れて咀嚼すると、優芽はタコみたいなクネクネした動きをしながら、幸せそうに蕩けた表情をする。案外不気味。 「ん~、この甘さとトロトロ具合がたまんないよね。あ、お箸ありがとう」 箸を返還し、自分の弁当を出す。 どうも、とイブキは返してもらった箸で、チキンライスをつつく。 どこまでもクールなイブキに対して優芽は「それにしてもさ」と机をパシパシと叩く。 「ホント、イッチャンはいいお嫁さんになるよ。てか、ウチに来て! あーしのお嫁さんになって!」 「丁重にお断りします」 優芽は「む~」とほっぺたを膨らまして不満アピール。 「はぁ~あ、イッチャンはマー君のものかぁ」 ころころと表情を変える優芽を見てイブキは苦笑する。 「……御主人様は私のものってわけではないんですけどね」 「うん?」 「なんでもありませんよ」 口が滑った。きっとエビフライの油のせいだ。 ミートボールに箸を突き刺しながら優芽は続ける。 「やっぱイッチャン、元気ない」 「いつも通りですよ?」 「んにゃ、あーしにはわかる。女の勘ってやつっ」 このエキセントリック娘のどこにそんなもんが備わっているんだろうと思ったけど失礼だと思ったから言わない。 相変わらず、設計図なしに機械いじりをするように直感と本能で動く子で、こういうタイプが人生楽に生きられるともイブキは思った。 (ああ、もう、めんどくさい) 優芽の追求がめんどくさい。 御主人様と凛がじゃれつくのが想起されてめんどくさい。 御主人様が陽菜の頭をなでて陽菜が恥ずかしそうにするのが想起されてめんどくさい。 だから。 「まあ、ここで言ってしまったほうが楽かも知れませんね。それに、今話すことで何か見つかるかもしれません」
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