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「マー君、やっほーっ! リンリンは?」
「ああ、アイツなら今日発売のゲームがあるって言って、授業が終わりとともにダッシュで帰りましたよ」
「あっはっは、マー君と一緒に帰るよりゲームってか」
「優芽さんそれは言わない約束でしょー」
自他共に認めるゲーマーである凛は、陽菜に今晩の夕食当番の振り替えを頼むほどである。そして凛が朝に弱いのは、趣味のゲームに睡眠時間を削っているせいだったりする。
(あのー……えーと)
イブキは完全に余裕を失い、二人の会話が耳に入ってこない。
イブキがどう会話に交じろうかタイミングを伺っていると、優芽はガシガシ話を進める。
「そうそう、イッチャンにさ、イメチェンを勧めてるんだけど。眼鏡をコンタクトにするとか、髪変えるとか。マー君はどう思う?」
「そうですねぇ……」
イブキの方に体ごと向いて目を合わせてくる。
(あ、あぅ……! 無理! 今、目、見れない!)
でも、目を離したいのに、離せない。
焦れば焦るほど、心臓は落ち着いてくれない。
そんなテンパったイブキに、雅人はやんわりと微笑んだ。
「俺は、今のイブキさんが好きですよ」
(ーーーーーーッ!!!!)
イブキは心の中で、声にならない絶叫を上げた。
もう何度も言われ慣れているはずの言葉なのに、今回は違った。
相手を意識している上、卑屈になりかけているときに、言って欲しい言葉だった。
自分を肯定してくれる、言葉。
「ありゃ、そう? だってさ、イッチャン」
「え、あの、い、いえ、私も、このままで、いいと思います」
噛みまくりだった。
一呼吸置いてから返事をすればいいものなのに。その余裕すらないことに思わず頭を抱えたくなった。
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