体調管理はしっかりしましょう

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「……御主人様は、強いですね」 「そうですか?」 「いつも思うのですが、怖くはないのですか? 断られることが」 「んー。まあ、傷つくのは怖いよ。でも、自分から壁作っちゃうとさ、もったいなくない?」 「それは、そうですけど……」 「使い古された言葉だけど、『やらない後悔より、やった後悔』ってやつ。その人にまた次会える保証なんてないんだからさ、今に全力を尽くすだけです」 いつも通り雅人はにこやかに話すが、イブキの顔は曇った。 「……それは、事故で亡くなられた御両親のことですか?」 「あー、いや、そんな深い意味はありませんよ? でも確かに、いつのまにか俺の中の軸にはなってたかもですね」 その奥に光が燈っている雅人の瞳は、揺らがなかった。 「……」 イブキは無言で、思わず顔を背けた。 自分にとって、雅人の笑顔が眩し過ぎたから。 今までなるべく傷つかない生き方をしてきた、自分にとっては。 イブキが手をにぎにぎしながら、躊躇いがちに聞いてくる。 「どうしても、ですか?」 「え?」 「どうしても私に触れたいかと伺っているのです」 「もちろん!」 即答だった。 イブキは呆れ顔で、雅人に聞こえない程度に一人呟く。 「……そんな笑顔できっぱり言われたら、断るに断れないじゃないですか……」 「何か言いました?」 「なんでもありません」 そして、いつものクールな顔と声に戻して、早口でまくしたてた。 「……まあ、御主人様がどうしてもとおっしゃるのでしたら、それに従うまでです。私はメイドですから。ええ、顧客第一です。それ以上のことは何もありませんので、御主人様、邪推は無用ですよ」
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