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その家は、ただ一軒だけそこにポツンと建っていた。
最初からそうだったわけではない。以前はこの辺り一帯は広大な住宅地で、広い敷地の庭付き一戸建て住宅が建ち並んでいた。
あるとき、役所から立ち退きの要請があり、指示に従った住民たちは一軒、また一軒と立ち退いていき、それら跡地は今やきれいにならされてしまって、そこに家が建っていた形跡すらもうない。
そんななか、その一軒だけが最後に残ってしまったというわけなのである。
この地域では大きいほうに入る、大家族でも住めそうな、二階建ての立派な邸宅で、かなりの建築費がかかっていそうな物件であった。
その日、その家の前には大勢の人だかりができていた。
そのなかの一人がハンドスピーカーでその家の主に向かって呼びかけている。
「これより、国による強制代執行をとりおこないます」
派遣された職員だった。着慣れない作業服が似合っていない中年の男で、片手のメモを読み上げる。――知事の命により、条例に照らし合わせ、云々。
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