プロローグ

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 定時通りにくばられた朝刊を取りに玄関に行くと―― 「これは……」  一つの大きな鞄が置かれていた。  なめし皮がはられ、素朴ながらも意匠の施されたその鞄からは、どこか西洋の趣きを感じる。  眼鏡に隠れた表情は見えないが、いつもよりわずかに真剣な声を出す一人の男。  年齢は三十代前半だろうか。  彼は高校の教師で、古文を教えている。  名を、木村という――。  妻が頼んだ物かと一瞬考えたが、彼はその鞄を開けてみることにした。 「……」  鞄の中に入っていたのは、一体の人形だった。  彼はそれを抱き起こす。  ――人形にしては、かなり大きいかもしれない。  しかし、そんな感想などすぐに消え去った。  美しい金色の髪。だがそれさえも霞むような赤の衣装。  それはまるで、薔薇のよう。  彼は人形が入っていた鞄を見る――と。 「……ゼンマイ?」    『まきますか? まきませんか?』  昨日、郵便物受けに入っていた手紙のことを思い出す。  彼は『まきます』に丸をつけ、手紙に記述されていたように、あて先も書かず切手も貼らず、そのままポストへ投函したのだった。
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