第八譚 腐蝕の空の下で

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 扉は年季が深く入っており、何かの模様が刻まれてはいるものの、良くは分からなかった。ところどころが黒ずんでおり、木の扉よりも冷たい印象を与えてくる。静かに足下で佇むその扉を見詰めていると、紅罪が口を開いた。 「開け!」  紅罪の言葉で茨が断ち切られ、扉が開かれていく。ギギギッ、と言う音と共に、下へ広がっていく扉。その奥は酷く暗く、正に一寸先も見えない、と言った様子だ。 「────開いた。今から【シルバーコード】を繋」  紅罪が何かを言いかけた、その瞬間。  がくんっ、と、雅の体が揺れる。 「えっ?」  足に絡みついた、茨。それは先程まで扉を縛っていた茨とは、違う茨だった。青々とした棘のある茨が、雅の足に絡みついている。 「なんだその茨……? 【扉】を縛る茨とは違」  紅罪がそこまで言った、直後。雅の足が物凄い勢いで引っ張られ、扉の中に引きずり込まれていく。その茨は雅だけを縛り、神室のことは一切縛っていない。 「雅っ!? くそっ、扉を一旦閉め────」  何故私だけ。紅罪の焦りようからして、これは異様な事態だ、と雅は悟る。だが、引きずられていく力は止まってくれず、雅の体は扉の中に消えていく。 「雅! 手を伸ばせ!」 「べ、につ……ッ……!」  中に引きずられていく中、雅は何とか腕を伸ばそうとする。だが、伸ばしたその手は紅罪に触れることなく、雅は扉の中へ放り込まれることになった。       ◆◆◆  契約者の少女と、是堂紅罪が去った後の教室。  その中に残った【原作】は、立つことにさえ疲れて、置き去りにされていた机の一つに腰掛けていた。  鎌も持たない彼は、一見、ただの青年にしか見えない。けれどその顔つきは間違いなく、【グリムリーバー】だった。 「それにしても……【彼】は、なんでこんなのにあんな手こずったんだ。やっぱり、所詮は……【ガラクタ】か」  【改訂版】と呼ばれるもう一人の自分……の立ち位置に現在いる人物を思い出し、【原作】は小さく呟く。全く、絶花やあんな堕天使風情にぼろぼろにされるなんて。思い出すだけで、酷くプライドを傷つけられた気分だ。 「【あいつ】も君と同じ目にあわせようか。なぁ」  そして、【原作】は少女を見た。蹲り、全身ぼろぼろの、彼女を。
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