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肌を焼く晴天は、まるで雅を歓迎しているような、はたまた追い出そうとしているかのような。どうとも受け取れない空を見ていても仕方がないので、雅は目線を下ろした。
広がるのは、広大な畑。夏になり、鮮やかな緑色の葉が風に揺れている。ずっと奥まで、それこそ水平線が見えるのではないかと思うほど、遮る物はない。
柩見村はビルもマンションも存在していない、所謂、長閑な田舎だ。田圃と木造の古い家に囲まれた風情のある日本古来の姿が続いている。
人口数千にも満たない小さな村で、車が走る事は滅多になく、逆に車を使えば村人にぶつかりそうでノロノロ運転しかできない。
雅が通うこととなっている枢見[クルルミ]学校も、幼稚園から高校生までを合わせて五十人弱しかいない。とはいえ枢見学校が無くなれば隣町まで行かねばならず、隣町と言えども山を二つ越えねばならない為、簡単には廃校には出来ないのだろう。
しばらく変わらない光景を目にしながら歩いていると、商店街に行き着く。まだ朝早い為か殆どの店のシャッターが閉まっていたが、魚の仲卸店だけはトラックから荷物を下ろす作業に追われていた。
商店街を通り抜け、またしばらく歩いていくと緑色のフェンスで囲まれたグラウンドが見えた。グラウンドとは名ばかりで、荒れ果てた土地をそれらしく見せただけのものだが。
枢見学園。幼稚園から高校まで、一つの校舎で賄っている学園だ。
グラウンドの中で朝から遊び回っている幼稚園や小学校の子供達を横目に、雅は校舎の前に訪れる。校舎を見るとまた恐怖に駆られてしまうかと思ったが、都会の学校とはまるで違う汚い校舎のお陰か、あまり学校に来たという気分にならなかった。
以前……といってもずっと昔の話だが、昔は栄えていたらしいこの村には子供も沢山居たようで、校舎はとても大きい。今使用しているこの校舎は、昔中学校として使っていたものだそうで、昔は幼稚園、小学校、高校も更にあったというのだから驚きだ。
「それにしても古いよなぁ……これ、地震来たら一瞬で崩れちゃいそうな気がする……」
骨組みすら腐食しているのではないかと思われる古い校舎は、子供の楽しそうな声がなければ廃墟に見えるだろう。事実、初めて訪れた時には、ここが校舎だとはさっぱり思えなかった。
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