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校舎の中に入ると、コンクリートの壁で出来た校舎より、随分と暖かみを感じた。学校という場所が普通もたらす独特の密閉感はあまりなく、目の前に立ち並んでいる殆ど使われていない靴箱だけが、ここが学校であることを示す証拠だ。
「これなら、大丈夫かな」
以前通っていた学校で、雅は学校独特のあの密閉感が苦手だった。以前来たときは緊張と恐怖がかなり先行してしまった為に、周りを見る余裕などさっぱり無く気づけなかったが、問題なさそうな気がする。
自分の靴箱を探し当て、半年間も放置されるという可哀想な境遇で鎮座していた上履きに履き替えると、奥に入る。中学校の教室を目指して奥に進めば進むほど、木屑と埃の臭いが深くなる。正直あまりいい臭いではなかったが、消毒用アルコールの臭いが毎朝新しく臭っていた以前の校舎よりはマシに思えた。
枢見学校は幼稚園から高校まで校舎は繋がっているが、入り口は一つしかない。雅の記憶が正しければ、中学校の教室は二階部分にあったはずだ。中学教室では一年から三年、そして唯一の高校生だという高校一年生が所属しているという。
「別に教室、行く必要はないんだけど……職員室、わかんないな……」
一階の廊下を一通り見回してみたが、全く見つからない。全く使われている気配のない教室ばかりが並んでいて、このまま彷徨いていると迷ってしまいそうだ。
「……教室行ったほうが良いか」
このまま彷徨いてらちがあかないよりも、授業に行くべきだろう。正直、あまり教室という空間には行きたくないが仕方がない。雅は覚悟を決めて、教室へ向かう。
「この階段の上、のはずなんだけど……これ普段人通ってんの……?」
子供の悪戯か、風の悪戯か。階段は一段一段が青々とした葉で彩られていた。
人が通った形跡が全く見られない階段を登って良いのか疑問に思いながら、雅は葉をなるべく踏まぬよう登る。階段を登り終え、一体どこの教室だったかと見回していると、一つの扉が目に入った。普通はクラスナンバーが飾られるプラスチックケースに、中学生学級、という文字が入っていたからだ。
その扉の前に行くと、【マチちゃんクラス】という即席の学級紹介が貼られていた。ここだな、と思いつつ、仲の良さを伺わせる貼り紙に、馴染めるかな、と少し不安が過ぎった。
だが、いつまでも扉の前で黙って立ち尽くす訳にはいかない。
「────よし!」
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