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覚悟を決めた雅は、扉をスライドさせて開けようとする。
がらがらっ、と開くことを期待したのだが、あまりの滑りの悪さに扉が微妙に斜めに傾き、ガタッ、と嫌な音を立てた。
「……」
何だか最初から出鼻を挫かれた気分……。
雅はがっくりと肩を落としつつ、逆に緊張が抜けたので良かったか、と思いながら両手を使って扉を開いた。
教室の中は、拍子抜けする程殺風景だった。机は両手で数えられる程しかなく、教壇も黒板も古い。普通掲示板などに乱雑に張られているプリント類が全くなく、置き去りにされている教科書なども全くない。花の一つでも飾ればいいのに、と思うほどの殺風景だが、古さの割には綺麗に整頓されている。
因みに今の時間は八時十分過ぎ。以前の学校であれば、二十分前ともなれば半分くらいの生徒が居ただろう。まるで放課後のような静けさと哀愁が漂よっている。
「あ、一つだけ鞄……が…………なんか凄い……」
何もない殺風景な教室の中で、雅は一つの鞄を見つけた。
教壇前の優等生席に置かれているその鞄は、普通の学生鞄の名残があまり無かった。どこかのブランドのものと思われるロゴが大きくピンク色で入った布製の学生鞄には、ふわふわとした大きなファーがカラフルにつき、ピンクゴールドのチェーンやキーホルダーなど、重くない? と思わず聞きたくなるような鞄。
が、中身は鞄が膨れるほどきちんと詰まっていて、優等生とギャル、どっちなのだろうと言う疑問にかなり襲われた。
「なんか、凄い個性強そうな……あ、そう言えば私の席どこなんだろ」
自分の席も知らない雅は教壇の前に立つと、隅に置かれた座席表に手を伸ばす。プラスチックのケースに入れられたその座席表を雅はのぞき込んだ。
枢見学園中学学級名簿
担任 望月待奈
学級委員長
王踊 生布
亜空 唯臣
虚村 神室
是堂 紅罪
歪我 右京
歪我 左京
浅磨 雅
「え、読めな……」
雅の名前だけシールで付けられた座席表には、思わずそう呟きたくなる程難しい名前が陳列していた。一瞬見間違いかと思うような名前の数々に、雅は目を細める。
「歪みって苗字にあるのか……てか罪って名前につけていいの? 学級委員長、イキヌノ? ……男?」
「女」
「この名前で? へぇ、世の中面白い名前がいっぱ…………ぎゃぁああ!? 誰っ!?」
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