1032人が本棚に入れています
本棚に追加
「っ!?」
青年が小さく痛みを訴える声を出し、頭を押さえて雅から離れた。かなり太い本だったので、いくら男でも勢いよくぶつけられれば痛いだろう。
うわぁあ……容赦ない、痛っそうな……
神室が受けたであろう痛みを想像し、愕然とする雅の前で、青年は頭を手で押さえたまま背後を睨む。すると背後に立っていた人物は、険しい目付きで青年を睨み返した。
「もう、何でもかんでも人を疑うのやめなさいっていつも言ってるでしょ? 突然女の子の顔覗き込んじゃダメ!」
青年の後ろにいたのは、一人の少女。青年より背が低いが、雅よりはずっと高い。
「……朝から声でかい」
青年────神室に至極まともな説教をしていた少女だが、当の神室は自分の本を回収すると、耳を押さえて席に行ってしまった。
「ちょ、誰の声が大きいって!? ってもう聞いてないし……マイペースすぎだよ、全く。少しは協調性ってやつを……ってあ、ごめんごめん」
最早話を一切聞いていない神室の背中に怒り続けていた少女だったが、雅が居ると言うことを思い出したらしく、彼女は雅の方を見た。
「転校生の浅磨さんだよね? 今日から登校できるようになったんだ、よかっ……あれ? どうかした?」
雅は、セーラー服を着た少女の姿を見て言葉を失った。
彼女は、俗に言うギャルの出で立ち。田舎には完全に不釣り合いで、背景に似合っていない。東洋人にしては白い肌で、顔立ちからハーフと思われる。目を見張るほどの美人だというのに、マスカラやファンデーションにチーク、リップグロスなど、ありとあらゆるメイクをしている為、折角の綺麗な顔立ちが壊されている気がした。
ピンク色が好きなのか、指先近くまで覆うカーディガンも、腕に巻き付けられているシュシュも、ツーサイドアップにされたやや癖のある髪のゴムもネックレスも、何もかもピンク色で統一されている。
紺色のセーラー服とピンクのアクセサリーで彩られた彼女だが、一番目を引くのは、二重の大きな瞳。飾り立てられた外見の中で、翡翠のその瞳だけが彼女の唯一の真実なように見えた。
「浅磨さん?」
その翡翠の瞳が、雅を覗き込んでくる。マスカラで綺麗に整えられた長い睫の中で動く翡翠の瞳に、雅は自分が彼女をじっと見たまま固まっていたことに気付いた。
最初のコメントを投稿しよう!