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「あ……ご、ごめん」
雅が思わず謝ると、少女は何で謝るのー、と軽く笑い飛ばしてきた。外見とは違い取っ付きやすそうな明るい笑顔に、雅は少しほっとする。
「私は王踊生布[オウオドリオニノ]。生きる布って書いてオニノだよ、変な名前でしょ。一応委員長だけど、浅磨さんと同い年だよー」
委員長。先ほど神室が言った【女】という呟きは、この少女のことを指し示していたのか。
男とか言ってすみませんでした。心の中で、深く謝る。
「色々至らない所があるとは思うけど、宜しくね! あ、雅って呼んで良い? 私のことは生布って呼んで!」
生布が明るく言いながら雅に手を差し出してきた。差し出された細長く綺麗な手を見つめ、雅はじっと考える。
こういう時は、えっと……。
「うん。宜しく、ね」
雅がその手を握り返すと、生布が嬉しそうに笑う。良かった、あっていた、と思っていると、生布は雅と握っていた手を離し、先ほど席に向かっていった神室の方を指差した。自席だと思われる席に座り、頬杖をついて憂いのある顔で本を眺めている神室は、生布に指さされても何の反応も示さなかった。
「あっちの彼は、虚村神室[ウツロムラカムロ]君。この村唯一の高校生だよ」
「え!?」
彼が、唯一居る高校生だったのか。どうりで、大人びているはず。年齢が上なのだから、当たり前だ。
神室は自分の話が出ても、本に集中しているからかどうでもいいからか、顔もあげなかった。先ほどちらと見ただけだが、本の表紙に書いてあったタイトルは英語で、厚さからしても簡単な本ではないことが伺えた。
あんなに一生懸命読んでいるなんて、余程の勉強家なのだろう。あの無表情さや素っ気なさも、あまり軽い雰囲気が好きではないことの裏返しなのかもしれない。
……と雅は勝手に推測していたのだが、生布の方はもう、と小さく頬を膨らまして神室を見ていた。学級委員長としては、あまり友好的ではない人物がクラスにいると、何かと不便なことがあるのかも知れない。
「ごめんね、神室君って疑いたがりの本の虫だから」
つまり、興味に対して真っ直ぐな人……っていう認識で良いんだよね?
生布のやや酷い言い様を頭の中でそう翻訳しながら、雅はへぇ、と答えておいた。そう言えば先ほど彼は私が転校生だと言うことに随分と疑問を感じていたようだが、私のどこがそんなに転校生らしくなかったのか。
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