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「それにしても、【原作】……だったか? なんなんだ、ホラーハイズは……【禁忌】指定されている魔術を、こうも簡単に扱うなんて……というか、蘇生なんて代物はあったんだな」
ペットボトルから血を出しながら、紅罪が小さく呟いた。指先にグリムの血を絡め取りながら、紅罪は何かの文字を刻んでいく。
「紅罪でも全然、知らなかったんだね」
「知らないさ。今行おうとしている、虚村を目覚めさせる絡繰りも全く分からない。だが、あの【童話の再現】の言うことだ……本当に、虚村を生き返らせられるかも知れない。こんな……突然殺され、無惨な姿にされるなんて……あってはならない」
文字を刻みながら、紅罪は最後の方は辛い胸の内を吐露するように呟いた。もしかすると紅罪は、本当は【死】と言うものに心を痛めやすいのではないだろうか。
戦闘中に無慈悲のようになるのも、感情を一々抱いていてはやっていられないから。凶が一度体を破壊された時に見ようともしなかったのは、見ては感情が決壊してしまうから。
唐突なことで彼女自身の頭もぐちゃぐちゃになっているはずなのに、神室が生き返ると信じ、黙々とグリムの言葉に付き従う紅罪。その真っ直ぐさは美しいくらいのものだったが、一方で雅は、途方もない不安に駆られた。
紅罪の、この後の行く末について。
雅が外野から口を出すべきではないだろう。そうは、思ったのだが。
「…………、紅罪、あのさ」
「ん?」
文字を書く手を止めることなく、紅罪は反応した。全てが真っ白い彼女が床に血文字を書いている姿は何とも異様で、けれどどこか神秘的にすら感じる。
「その……今回のこととか、どう……報告するつもり、なんだ?」
「────」
雅の言葉に、紅罪が手を止めて顔をあげる。その顔は、驚きさえ浮かべられなかった無表情を見せていた。顔の筋肉が完全に固まっている、と言えばいいのだろうか。
「あ……い、いや、その。…………紅罪……本当は、まだ【処刑執行者】なんだろ? えっと……この前崩架神社で聞いた話とか……絶花の対応とか見て、そう思ったんだ」
「……」
雅の言葉に、紅罪は目線を逸らした。そして、血の付いた指先を握り締める。
「はは、驚いた。お前を甘く見ていたな」
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