1032人が本棚に入れています
本棚に追加
紅罪の言葉に、雅の指先がぴくんっ、と、揺れた。紅罪はそんな雅の指先を見て、そして、小さく、困った笑顔をする。
「表情。消えてるぞ」
「……………………。紅罪が、変なこと言うから」
雅は紅罪の言葉に、頬を膨らましてむくれる。
「変なことではないぞ? ここまで戦いに巻き込まれているお前を見ていると、お前はあまりにも平然とし過ぎていた。驚いたり泣いたり、人間らしい側面も勿論あったが……それすらお前は、【そうすべき】だからしているように、見えたんだ。唯一、一つの時を除いては」
「……どんなとき?」
雅が聞くと、紅罪は雅から目を離す。その先にあるのは、神室。
「人が……亡くなった時だ」
「…………」
人が亡くなった時。それは、凶と、そして神室のことを指しているのだろう。
「お前が知っているのは、【人が死んで哀しい】……という感情だけ、かな?」
紅罪の言葉に、雅は無言で、神室を見る。
雅は、とても哀しかった。神室が死んだこと。確かにその感情を、雅は持っている。けれど。
「────────そうだね。私は、【人が死んで哀しい】って言う感情は知っている。だけど、それだけじゃない」
雅の言葉に、紅罪が此方を見た。雅は神室から、紅罪から目を離すと、自分の足元を見た。【私】と言うものを支えている、この足を。
「【殺した者への憎しみ】……っていうのも、知ってるんだよ」
「!」
雅の言葉に、紅罪が息を飲んで顔をあげる。けれど雅は、目線をあわせることなく顔をあげた。その顔に、【笑顔】を浮かべて。
「なぁ紅罪、私も話、したくなってきた。聞いてくれるか? 私がお前の言う【監視者】的に見た視点で、気付いたこと」
「え? あ、あぁ」
雅からそんな提案をされるとは思わなかったのだろう。紅罪は文字を書く手を止めることなく、そう言った。
「是堂紅罪は、【一番弱い】」
最初のコメントを投稿しよう!