第八譚 腐蝕の空の下で

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 紅罪の言葉に、雅の指先がぴくんっ、と、揺れた。紅罪はそんな雅の指先を見て、そして、小さく、困った笑顔をする。 「表情。消えてるぞ」 「……………………。紅罪が、変なこと言うから」  雅は紅罪の言葉に、頬を膨らましてむくれる。 「変なことではないぞ? ここまで戦いに巻き込まれているお前を見ていると、お前はあまりにも平然とし過ぎていた。驚いたり泣いたり、人間らしい側面も勿論あったが……それすらお前は、【そうすべき】だからしているように、見えたんだ。唯一、一つの時を除いては」 「……どんなとき?」  雅が聞くと、紅罪は雅から目を離す。その先にあるのは、神室。 「人が……亡くなった時だ」 「…………」  人が亡くなった時。それは、凶と、そして神室のことを指しているのだろう。 「お前が知っているのは、【人が死んで哀しい】……という感情だけ、かな?」  紅罪の言葉に、雅は無言で、神室を見る。  雅は、とても哀しかった。神室が死んだこと。確かにその感情を、雅は持っている。けれど。 「────────そうだね。私は、【人が死んで哀しい】って言う感情は知っている。だけど、それだけじゃない」  雅の言葉に、紅罪が此方を見た。雅は神室から、紅罪から目を離すと、自分の足元を見た。【私】と言うものを支えている、この足を。 「【殺した者への憎しみ】……っていうのも、知ってるんだよ」 「!」  雅の言葉に、紅罪が息を飲んで顔をあげる。けれど雅は、目線をあわせることなく顔をあげた。その顔に、【笑顔】を浮かべて。 「なぁ紅罪、私も話、したくなってきた。聞いてくれるか? 私がお前の言う【監視者】的に見た視点で、気付いたこと」 「え? あ、あぁ」  雅からそんな提案をされるとは思わなかったのだろう。紅罪は文字を書く手を止めることなく、そう言った。 「是堂紅罪は、【一番弱い】」
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