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「……!」
だが、その手は直ぐに止まった。そして、愕然とした表情で見上げてくる。
「【処刑執行者】の中でも、きっと、私達の中でも。だから紅罪は選ばれたんだ、【スパイ】に。神室の探知でも引っかからないほど弱い毒、見限って良い、戦力とも言えない人材。それが、お前だ」
「……」
紅罪は雅の言葉から耳を逸らすように、文字を書く手を速める。だが、雅が話すことを拒絶しているようには思えなかった。
「【処刑執行者】におけるスパイって言うのがどういう役割なのか、お前が【スパイ】として私達の中に残っている状況から考えてみたよ。お前はさして頭の回転が速いわけでもないし、飛び抜けて頭が良いとも思えない。戦闘に対して冷酷になれるから、その応用で私生活でも割り切りが出来る、っていうのも選ばれた理由かな、とは思ったけど」
だけど、きっとそれは一番の理由ではない。
「【処刑執行者】と言う名前が付く以上、処刑を実際に行うことがメインなはず。なのにお前はこの学校にずっと潜伏して、ニオが来るまで神室を殺そうとしなかった。そして、私達が窮地に立たされた時、その機に乗じて戦うどころか私達の味方をした。あの不自然なニオと絶花の登場……誰のたくらみか分からないし、ニオとしては本当にグリムを殺そうと思ってたのかも知れないけど、私達の中に入り込むための一芝居だったはずだ」
雅の言葉に、紅罪は小さく笑い出す。笑い声が段々大きくなり、彼女は手を止め、大きく笑い出した。
「ははは、そうだ! 全く、忍び込むために刺客を送るとは言われたが、まさかニオが焚き付けられて来るとはな。それくらいに【政府】にとって、あの二人は重要なんだと思ったよ」
紅罪の笑い声を聞きながら、雅もまた笑顔を崩さなかった。今から言うことが、本当に紅罪に告げたい、言葉だったから。
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