第八譚 腐蝕の空の下で

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「だけどお前は……そんな【処刑執行者】が、実はあんまり得意じゃない」 「……」  雅の言葉に、紅罪が笑うことを止めた。驚きから、畏怖へ。そして、それを飲み込む無表情へ。 「お前は、全力で絶花を殺そうとした。グリムと神室を殺しかけた、絶花を。それは、お前が絶花の【偽物】を壊した時、本当に殺したと思いこんでいたあの瞬間があるから、証明される」  神室と連携し、絶花の【偽物】の首を討ち取った瞬間。あの時、グリムと雅がその違和感に気付くまで、紅罪は本気で絶花を殺したと思っていたはずだ。 「お前が本当に私達に信用されたかったんだとすれば、あの瞬間お前は私達の【役に立つ】べきだったんだ。だけど、お前は【役に立たなかった】。神室とお前が連携して絶花に勝つというシナリオは、用意されてなかったんだよ。なのに、お前はそれをした。絶花を本当に殺す……【異端審問】と言う順序に乗っ取らない、そんな絶花がお前は実は、許せなかったんだろ」  異端審問にかけるべき。紅罪はずっと、そう主張していた。  それはきっと、彼女が見せた、演技ではない本音だったはずだ。 「そして今、お前は選択肢の上に居る。言われたんだろ? 神室に、逆に情報を教えてくれって。お前のそんな心の内を知ってか知らずかは分からないけど、あの神室でさえ感じたんだよ、お前は他の【処刑執行者】とは一線を画す、ってね」  雅の言葉に、紅罪は手を止めると、目を強く閉じる。再び開かれたその目には、強い憤りが滲んでいるように思えた。 「私は────【処刑執行者】だ。そのことに誇りを持っている。【12番目】になるなど……その味方になるなんて、あり得ないんだよ」  紅罪の、憤りに彩られた声。それは彼女の本気の怒りで、そして、悲痛な叫びに聞こえた。 「そうだね、紅罪は本当の【処刑執行者】なんだと思う。【異端審問】にもかけず、【処刑】と言う名の下に、殺戮を繰り返す人達とは違って」 「っ……」  紅罪の憤りに滲んでいた目が、再び恐怖に変わっていく。 「だけど、お前はそれでも【処刑執行者】に居る。そして、ちょくちょく失敗するような小細工を仕掛けてる。それは、【処刑執行者】を抜けたくても抜けられないから……かな」  紅罪は暫く、雅を異様なものでも見るような目で見てきていた。だが、次の瞬間、彼女はははっ、と、明るく笑った。
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