第八譚 腐蝕の空の下で

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 紅罪の言葉に雅は素直に頷いてしまう。頭が悪いとは思わないが、決して知能が高い方とは思わない。けれど、紅罪には別の武器がある。 「生布のことさっき話してたけど、紅罪はずっと長い間潜伏してたんだろ? この学校に。だけど神室はまるで気付いてなかった。紅罪はあんまり意識してないと思うけどさ、凄く親しみやすいんだよ」  一見冷たい印象さえ抱かせる外見の紅罪だが、その大らかさと、一方で見せる繊細さは人を惹き付けるものがある。だからこそ逃亡生活で神経を尖らせているはずの神室も、紅罪が【処刑執行者】だと気付かなかった。 「紅罪は、【家族】から……いや、貴族だから一族だけじゃなくて、【家人】から大切に思われてたと思う。そして紅罪も、今と同じように家人と仲良くしてたんじゃないかな。だけど、それを疎む人物が居たはずだ。紅罪を【紅罪】なんて名前にした人物が」  紅罪。正直、その名前が聞いて心地よいものかというと、否だ。  【罪】と言うワードが入っている時点で、相当なものだと思う。 「流石に両親が自分の娘に【罪】と名付けるなんて、信じがたいものがある。生まれてめでたい瞬間だよ? だけど、紅罪が生まれた瞬間、きっとめでたくない何かが起こった。これは本当にただの推測だけど……紅罪が生まれた時、お母さんが亡くなったんじゃない?」 「……」  雅の言葉に、紅罪は目を細めた。雅の言葉が図星で、その言葉を何とか受け止めようとしている、そんな様子だった。 「名前をつけたのは母親の両親か、兄弟姉妹……多分兄弟姉妹だな。子を生んだことのある親がそんなことをする可能性は低いと思う。父親の可能性もあるけど、お前の名前を呼ぶたびに思い出すとか悲しすぎるし……違うと思う」  雅はそこまで言って、紅罪の方を見た。暫く動かなかった彼女だが、徐に立ち上がると雅の方を見てきた。 「私の母は、生まれ付き虚弱だったそうだ。兄を生んだ時点で体が弱り、私は望まれずに生まれてしまった。それ故に母の姉────伯母が、特に私を憎んでいてな。毒を盛られてしまったんだ」  毒を盛られた? あまりに突然な言葉に、雅はギョッとする。その見かけからして、何らかの事故に巻き込まれたとか、そう言う類だと思っていた。いや、どちらにせよ遭いたくない状況なのだが……。 「それにしても、ここまで言い当てられるとは。だが……少し、嬉しかったよ」 「え?」
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