第八譚 腐蝕の空の下で

13/49
前へ
/1464ページ
次へ
 嬉しい? ここまで色々と言われてしまったのに嬉しいと思われるなんて、考えもしなかった雅はぽかんとしてしまう。 「お前の言う通り、私は戦うには弱すぎる。殆ど最前線に立たせて貰ったことはない。仲間達はこんな私でも頼りにしてくれたし、孤独を感じることはなかったが……でもやはり、私はどうしても部外者だった。戦う彼らを私は見詰めているだけだった」  そう言って紅罪は顔をあげる。 「私は誰かのことを見るだけ。見られることなんてなかったから、正直怖い気持ちが最初は強かったが……自分のことを見て貰えるというのは、意外と嬉しいものだな」  紅罪は少しだけ嬉しそうに笑った後、床を見た。雅もそちらを見ると、まるで本の一頁のようにびっちりと文字が書かれていた。 「さて……私も、頑張ろうか」 「うわ、凄いな。これが、【扉】を開く術式?」  もう充分頑張ってるよ、と言いたくなるほど、足下にはびっちりグリムの血で術式が書かれていた。 「あぁ。開いてから順序を追って説明する。取り敢えず、虚村の体をおいて……雅、この上に乗ってくれ」  雅は指差された部分に立つ。そう言えば【扉】とか【糸】とか、色々と分からない言葉が羅列していたのだった。自分の推理を披露している場合ではなかったと、今更ながらに後悔する。 「お前達は契約がイレギュラーと言っていたが、契約の構造自体は理解しているのか?」  紅罪の言葉に、雅は首を横に振る。やはりな、と言う顔を紅罪は見せると、術式の仕上げの手を止めずに口を開く。 「何故【契約】が存在するのか。【契約】は二人の精神をリンクさせて人間の【命】を削り、強引に空白を作り出す。その空白を人間側は生めようとし、グリムリーバーの精神とそれがぶつかることで、全く別の力────そう、【毒】の元が生まれるんだ。それを利用することで、グリムリーバーは毒を使うことが出来る」  命を削られることの反発、と言うことか。それは確かに、人間側にとっては命がけだ。 「互いの信頼が強ければ強いほど、互いのことを知っていれば知っているほど、グリムリーバー側が削れる部分が大きくなっていく。人間側の無意識の拒絶が、薄くなるからな。その一方で人間は【毒】に侵蝕される部分が多くなり、より純度の高い【水晶】を扱えるようになる」
/1464ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1032人が本棚に入れています
本棚に追加