第八譚 腐蝕の空の下で

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 なんとか立ち上がろうと努力しているが、最早全身に力が入らないらしい。生まれたての子ヤギのような状況の彼女は、次の瞬間にはばたっ、と音を立て、倒れてしまった。  堕噛絶花。  【四天王補佐】として、そして【処刑執行者】幹部としてヴィンセントの右腕的な役割を果たす少女だ。精神系統を操る強いグリムリーバーだが、その能力は一切、【原作】には通じていなかった。 「何回君の……オマエの【毒】はボクに効かないって言えば分かる? いい加減物わかり悪すぎて、腹立つんだけど」  二人が去った後にも懲りずに何度も立ち向かってくるので、取り敢えず毎回炎で遠ざけたところ、こんな有様になってしまっていた。これでは嬲っているようだな、と思い、いい加減終わらせようか……と思っていると。 「いい加減に……して…………わたし、あなたのそういう……酷いこと……笑えるところ、だいきらい……!」  侮蔑に満ちた声で、絶花が言った。 「知ってるよ。でも変える気はない」  別にボクも君に好かれたいとは思ってないし。  【原作】は心の中でそう呟くと、絶花を見る。惨めにもその場に蹲り、怨念と憤りだけで此方を睨み付けてくる彼女を。 「大嫌いなボクが、わざわざ君のテリトリーの中に入ってきて居るっていうのにね……」  【原作】は左腕に意識を集中させながら言った。血管の中を血とは別の熱い何かが逆流し、それが肌を超え、ダークブルーの炎を巻き起こした。  全身を襲う嘔吐感は、毒を逆流させた証拠。逆流させれば御しやすいダークブルーが、正常に流せば自爆ともいえる紅蓮の炎が産み出される。  そもそもグリム・ホラーハイズの炎はダークブルーと紅蓮では無い。そのため途方もなく使い勝手が悪い。しかし封印が解けた直後から本来の炎が発生せず、どうしようもない。 「そもそもオマエ、どうしてあんなにあの男……【血染めのポット】を狙うわけ」  【血染めのポット】……虚村神室。恐らくはその利用価値が無くなったとか言う理由で殺されたのであろう彼のことを思うと、一体【政府】と【12番目】、何が違うのだと唾棄したくなる。  だが、どんなに口で言い争っても、彼女ら【政府】の下僕達が変わることはないだろう。そして【原作】も、彼らの方針に従うつもりは、更々無い。
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