第八譚 腐蝕の空の下で

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 別段【血染めのポット】を救ってやる義理もないが、あの契約者の少女がそれを望んでいない以上、このまま放置しておく訳にはいかなかった。それに……多少は、【政府】も困るだろうし。 「あんた……には……関係、ないっ!」  絶花は怒りにまみれた顔のまま、左腕に紫の炎を出す。木槿のように折り重なって溢れ始めた炎だったが、【原作】が目線をそちらにずらした瞬間、直ぐに崩れ落ちる。 「く……!」  自分の手元を見て歯を噛み締める絶花。【原作】は仕方無しと言った様子で立ち上がると、彼女に近寄っていく。  ────もうそろそろ準備も終わって、虚村君を助けるためにあの二人が動くはずだ。ボクの場合、【契約】がどんな不具合を起こすか分かったものじゃない……そろそろ、絶花のことも終わらせなきゃならない。  【原作】は去っていった二人と、今は物言わぬ虚村神室のことを思い出しながら、そう思った。  ────出来れば、絶花には引き下がって欲しかったんだけど。今は彼女より……あの【少女】が優先だからな。 「ボクは弱い者いじめとか殺しとか、特に好きじゃないしするつもりはない。だけど必要があれば、する」  【原作】は言いながら、毒の炎を放出させる。全身を毒が逆流する嫌悪感を感じつつ、その矛先を絶花ではなく、離れた所で横たわる人間に向けた。 「な……にを……」  ただならぬ雰囲気を感じ始めた絶花が、もうろくに動かないはずの体を引きずって立ち上がる。しかし、気力はあれども体力は持たないようで、崩れ落ちるように尻餅をつく。  【原作】が産み出したダークブルーの炎は、絶花の契約者、王踊生布を閉じ込めていく。幻想的な青の炎でできた檻に閉じ込められた生布の体は、まるで十字架に磔にされたかのように檻の中で浮き上がり、力なくだらりと頭を垂らした。 「おにの……!」  青ざめた顔で絶花が【原作】を睨み付けてくる。その表情から察するに絶花と生布の間柄は契約者という言葉では終えられなさそうだ。  大きな紫の瞳を極限まで細めた、鋭い非難の目で睨み付けてくる絶花を見ても【原作】は冷めた表情のままでしかなかった。  何度も考えたことがある。ボクは、何かが欠陥しているのではないかと。
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