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しかし、彼女の口から最後まで降伏の言葉が出ることはなかった。
完全に強がりを失い、只の小娘に成り下がっていた絶花が、可愛らしい悲鳴をあげたその瞬間、全ての音が遮られた。
ゴゥッ、という、不快な炎の音が辺りを飲み込む。
帰ると言おうとした絶花を襲ったのは、灼熱の炎ではなく、薔薇色の業火。華美で、見ていると精神を食われてしまいそうな炎だが、何故か儚い。
まさに薔薇という花が一時の美しさを持つということを、そのまま表しているように。
「薔、薇……!?」
【原作】は爆風を防ぐために腕で顔を覆いつつ、思わず、驚きの声を出す。薔薇の炎は防ぐには値しないものの凄絶な火炎で圧倒してくる。
「う、う……そ……」
それは絶花も同じ思いのようだった。自分の悪夢が尽く消されていることも関係しているだろうが、彼女の顔は見るに耐えない。
浮かんでいるのは恐怖と、拒絶。
「なんで……君が、ここに?」
【原作】の驚愕の声が放たれたと同時に、壁の一部が熔かされ、炎が壁を多い尽くしていく。
薔薇色の業火は修復しようとする絶花の悪夢すら食らい付くし、辺りを華々しく着飾っていく。そんな、炎が花弁のように舞散る床に、けたたましい重音が鳴り響いた。
まるで地獄から沸き上がってくる負の亡者を捕らえる、悪魔のように。
まるで天国から信仰厚い聖人へ神の啓示を持って来た、天使のように。
はたまた、その二つを道化の玩具とする、傍観者なる堕天使のように。
「……随分と悪趣味ね」
放たれた言葉は淡白で、しかし人影の考えを表すにはぴったりな一言。
凛とした可憐な声で放たれた言葉は【原作】と絶花を黙らせる。業火が呼応するように小さくなり、やがて消えていく。人影によって爆破された壁も、滅紫水晶で修復され密室に戻っている。
たった一つのモノを除いて。
重低音を産み出した正体は、黒革の編み上げブーツ。絶花の作り出した不安定な床も物ともせず、強い足取りで人影は向かってくる。
激しい憎悪と、
激しい悲嘆を満ちさせて。
「グレーテル、様……」
絶花が戸惑いと拒絶を含んで、その人物の名を呼んだ。
爆発が作り出した風に、長い黒髪とヘッドドレスを靡かせながら、美しい人影は絶花を見下ろす。
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