第八譚 腐蝕の空の下で

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 血に蜜を垂らしたような甘さと残酷さを兼ね備えた紅茶色の瞳、滑らかで白い肌、そして美貌を包み込むに相応する、フリルとレースで彩られたゴシックロリータ。そして強く握りしめられた、黒革の手袋を填める両手。  【King of Fore】第3位、ニーナ・グレーテル。彼女が凄絶な無表情で立っていた。  ────何故、彼女がここに? 【原作】は眉を顰める。他の【処刑執行者】や、ヴィンセントが来たのなら分かるが……。  まぁ、グリムリーバーにその行動の理由を尋ねること自体が、ばかげているかも知れないが。 「どう見ても幼女を襲っている変態なロリコンにしか見えないのだけれど、先輩、なにか弁解の言葉はある?」  しかしその口から出たのは絶花を気遣う言葉ではなく、【原作】への容赦ない罵倒だったが。 「真っ向から全て間違っていると否定したいね」  ぴきっ、と眉を歪めながら、【原作】は言い返す。 「だったらどいた方がいいわよ。もし先輩がそういう趣味をお持ちのようなら、写真を撮ってファントムにばらまいてあげるわ」  一体、この女は何がしたいんだろう。  【原作】は先ほど絶花に向けた物より、更に苦い顔をする。  そしていまだに疑い深い眼差しで見つめてくるニーナを見て、【原作】は仕方なく絶花に向けていた炎を纏う腕をよける。  と、次の瞬間。 「眠りネズミ……Escape……!」 「っ!? ……あっ!!」  絶花が叫んだ瞬間、彼女と生布の体が滅紫の炎に包まれる。そして一瞬にして二人の姿は消えた。 「………………」  ビックリして声がでなかった。なんだこの連携……。 「逃げたわね」  我関せずと言いたげなニーナの言葉。だが、それが決定的な証拠。もし彼女が本当に何一つ関与していないなら…… 「【あら、逃げられちゃったわね】────だろ? 逃がしたんだろが、まったく。まぁあそこまで痛め付けとけば大丈夫かな……」 「うふふ。流石ね先輩。いいえ、【原作】と呼ぶべきかしら? 洞察力、人への信頼性のなさ……どれをとっても見事としか言いようがないわ」 「え、何? ひょっとしてボクを傷つけるためだけにこんなことしてる?」  そう思っても仕方がないくらいに酷い罵倒の嵐。  ニーナがクスクスと笑う。その微笑みは魅惑的な笑みだが、【原作】には最早恐怖の対象でしかなかった。  相変わらずこっわい女……。
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