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鏡に向き直って自分自身を見つめると、光を纏わない暗い瞳と目があった。それは見るに耐えない詰まらない目。この世に希望も絶望も感じていない、ただ淡々と生きるだけの屍。
「…………馬鹿。いくら見ても変わらないって」
蛇口を捻り、乾燥した肌を潤すように水を被る。顔の縁から垂れていく滴が、制服の襟を僅かに濡らした。
雅はタオルで顔を拭きながら、僅かに湿った髪が顔に張り付く姿を見る。その姿は、雅の望む姿とはあまりにも違いすぎる。
もっと可愛い女の子になりたかった。外見だけではなく、中身もだ。私はどうしてこんなに不気味なのか。
退廃している子。いつの日かそう揶揄された記憶を思いだし、雅は自嘲を浮かべることを止められなかった。
「化け物か……まぁ、お似合いだけど。地味に傷つくんだよな……」
蛇口から滝の如く流れる水に、雅は手を突っ込む。指先を撫でる水は、残念ながら雅の罪も、存在も洗い流してはくれない。
この手に残る血の感触は、私が焼かれて死ぬまで消えない……。
雅は水を手のひらに溜め、掬い上げる。なんの苦労も知らず指の隙間から零れる水を見て、雅は気づかぬ間に笑みを浮かべていた。
こんな水にさえ嫉妬してしまう自分へ浮かべた、今にも泣いてしまいそうな、そんな哀しい笑みを。
それを見るのが嫌で、雅は手のひらの水を鏡に叩きつける。鏡から雅の姿が消え、再び映るよりも先に、雅は洗面所から出た。
向かう先は部屋ではなく、玄関。アンティーク調のドアと大理石モドキの白い床。そこに並ぶのは、登校用のローファーと単純な外出用の古びたスニーカーだけ。
ローファーを履き、いざ家を出ようとしたその瞬間。雅の足が、止まった。
「……」
やっぱり……こうなるか。
雅は荷物を横に置くと、床に腰掛ける。自分の手を見ると、軽く震えていた。
学校に行く。そう思って部屋から出てきたことは何回もあった。だが、何回挑戦しても、ここから先に行くことができない。
「もう……あいつらはいないって。転校したんだから……」
自分に言い聞かせるように言ってみたが、その声自体が震えていて逆に不安感を増幅させるだけだった。雅は仕方なくその場で足を抱え込み、丸くなる。こうすると、少しだけ不安な気持ちが解消されるのだ。
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