PageⅠ 封筒

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  「ただいま……」 松野屋で散財させられた僕は 自宅のアパートに帰りつくと、 いつものように覇気のない声で 言った。 そしていつもの如く「おかえり」という返事はない。 台所に行くと、お母さんが既に仕事から帰っていて、 リビングのソファーベッドで寝転がっていた。 お母さんは大手電器店の社長秘書をしていて、 いつもはこんな時間帯に家にいることはないのだが、 今日から社長が家族旅行に出掛けるということで 早く仕事を切り上げられたらしい。  「徹(とおる)……。郵便受け、回覧板とか何かあった?」 お母さんはこっちを向かないまま、少し細い声で僕に聞いてきた。 「え? あ…、ゴメン。見てない」 お母さんからの突然の質問に 僕はちょっと返事に窮しながら 答えた。 お母さんは僕の返事を聞くと 一度大きな舌打ちをして 再び寝息をつきはじめた。 これはお母さんからの 『見てきて』の暗黙のサインだということが これまでの経験で分かる。
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