☆五月三十一日

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廊下の軋む音で目が覚めた。 築30年にもなれば至る所が傷んでくる。 そのたびに主人が趣味で使っている工具を持ち出して直していたが、今は家中の傷みが放置されたままだ。 工具も棚の上で埃をかぶっている。 窓際に置いてあるおもちゃ箱の上には紅い陽が反射して、空中に舞っている埃が光っている。 その向かいに立てかけている三本の釣竿はしっかり固定されているが、今は獲物がかかって寸前の微動で揺れている。 直感で分かった。 あの男が帰って来たのだ。 顔を思い出すだけでもおぞましい。 きっとこの家を未だに狙っているのだ。 冷えた床から顔を上げ、一歩一歩近づく足音に身構えた。 足音は止み、横暴に目の前の扉が開かれた。 私の直感に間違いはなかった。
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