☆五月三十一日

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「あれ?お前まだいたの?」 白々しく男は私に言い放ち、追い払うように手をひらひらと動かした。 相も変わらず、図々しい男だ。2ヶ月ほど前にこの家は私が主人から貰い受けたばかりだというのに。 「ここはもう俺のものだから、出てってくんない?」 私は男を睨みつけた。 体勢は身構えたままだ。 「お前と暮らす気なんてないんだから、さっさと出てけよ!」 少し苛立った口調で男は睨み返してきた。が、すぐに緩んだ。 「まあ、何言っても無駄か。」 男は入ってきた扉に手をかけようと目を逸らした。 その隙を私は見逃さなかった。 私はすぐさま男に飛びかかり、己の持っている刃を男の首もとに突き刺した。 刃を通して男の血液の熱と、高まった鼓動が伝わってきた。 男は叫んだ。 痛みを主張する金切り声だった。 家中に響き渡る声量だったが、無人の屋内に助けなどいない。 ただ悲しいぐらいの美しいこだまが返ってくるだけだ。 男は私を振り払おうと暴れだした。 しかし、私は決して力を緩めなかった。 逆に、力を込めて私を振り払おうとする男に必死に食らい突いた。 部屋中に血の痕が増えていく。 古くなった棚は倒れて工具が落ちて床に散らばり、埃が舞った。 立てかけられた釣竿も固定の台ごと倒れて、釣り糸が絡まるように無造作に床に落ちた。 男はその糸に足を絡ませて私のおもちゃ箱に顔面から突っ込んだ。 箱は男の体に合わせて曲がり、男を取り囲むように崩れた。 それでも私は男から離れなかった。
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