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 小石を少しの間、手で弄び、楽しむ。  すると直ぐ手に泥が付着して、土臭くなった。  寄りかかってる大きな骸の幹に負けないほど、深く広くポッカリと開いた大きな穴。  僕はその穴に目掛けて、手にした小石を投げてみた。  小石は僕の手を離れ、綺麗な半楕円軌道を描いた後に、暗がりの手前に着地する。  ……自分のコントロールの無さに、我ながらショックを受けた。 「そういえば君は、男の子なのかい? それとも女の子?」 『失礼ですね!! 私はどこからどう見ても可愛い可愛い女の子じゃないですか!! 貴男の目は節穴ですか?』 「さぁね。ごめんよ」  女の子ね……。  女の子だったのか。  そうなると話が少し変わるな。  まぁ、どの道些細な違いではあるのだが。  僕は、女と自称したただただ白い人を見つめる。 「ねぇ、君にとって世界はどう見えてる?」 『なに変な事を言ってるのですか?』 「いや、ね」  その闇の具現の様な双眸には、いったい何がどう映っているのだろうか?  僕には知る由も無いが、気になる。 「少し、小さな旅をしないか?」 『ちゅうにびょうですか?』 「……うるさいな。で、どうだい?」 『いいですね。今からですか?』 「うん。そうしよう」  決めて、僕は近くにとめておいた自転車を取りに行く。  黒いフレームが少し錆びたやつだ。  少し放置した間に、桜の花びらを被っていて、なんだか微妙な心境になる。  錠をを解いて、それから彼女の立っていた木陰に目をやる。  辺りから見捨てられたような、切り離された世界の一角。  そこに彼女の姿は既に────なかった。  慌てふためいて、暗がりまで走っていくと、そこには先程まで彼女が使っていた一冊のノートが落ちていた。 『ごめんなさい。旅はまた今度にしましょう。今日はとても楽しかったです。ありがとう、さようなら』  それだけ書かれたノートは、既にぐしゃぐしゃになっていて。  僕は、自転車に跨る。  ペダルを動かし、彼女の消えた木陰まで全力で走った。  到達して気づいた頃には、あの骸の近くにあった大きな穴は塞がっていた。  今も空は、季節は青い。  そんな中を見つめる、僕の視点からの世界は、不思議と何時もより霞んで見えた。 ──fin
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