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────扇風機が食べたい。
あの、プロペラがぐるぐる回って、涼しい風を提供してくれる、扇風機を食べてみたい。
夜が極端に短くなる、夏の盛り。
自らの短命に対して、文句がある様な、そうでも無い様な、そんな中途半端な勢いで響き渡る蝉の叫び。
彼等が発する、趣のある声と、教師の淡々としたお経だけが響く教室内で、山田次郎は、しかし授業とは全く関係の無い事を考えていた。
全ての扉が閉められていて、籠もった空気は汗臭い。
冷房の類が全く設備されていないここは、とても居心地の良い場所とは言えない。
もう、こんなのは嫌なのだ。
────そうだ! 扇風機を食べれは良いのでは無いのか?
そうすれば、この鬱陶しい暑さから逃れられるのでは無いのか?
だって、あの涼しい風が常に腹の中から送られれば暑く無いではないか!?
少年、山田次郎は端的に説明して、馬鹿であった。
それでも山田次郎は、その知能を、思考回路をフル回転させて、そんな事を考える。
もちろんの事であるが、山田次郎のには最早、授業の内容など記憶の隅にすら入っていなかった。
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