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山田次郎は唖然とした顔で、立ち尽くす。
沈黙が辺りを包み、下校時間の教室に残る、物好きな生徒の視線だけが、世界の回っている証明になる。
「次郎……、お前は天才か!?」
やがて蒼白な顔と、紫色に染め上げた唇をガタガタと震わせながら、田中太郎が口を開く。
────少年、田中太郎もまた、端的に言って馬鹿であった。
「俺も驚いてる。そこで、だ。扇風機ってデカいだろ? どうやって食べれば良いかな?」
「はははっ! やっぱり次郎ば馬鹿だなぁ、そんなの簡単じゃないか!」
「なに!? なにかいい案があるのか太郎?」
「扇風機を分解して食べればいいじゃないか!」
「なん……だと!? 太郎、やはりお前は俺を超える天才だな!」
「はははっ! もっと誉めて良いぞ!」
「ああ、凄い、凄いよ太郎!」
「よし、そうとなれば早速分解しに行こうぜ次郎、いや、相棒!」
即断即決、即行動。
それは、山田次郎と田中太郎の数少ない、誉められるべき、良点であった。
夢に満ちた少年二人が、教室を出るべく走り出す。
まだまだ夕刻には程遠い、暑苦しい頃。
少年たちの馬鹿で、しかし自由に満ちた夢はまだまだ壊れない。
今日もこの町に、馬鹿二人の声は響き渡る。
誰にも彼等の馬鹿で愉快な夢は終わらせる事はできないだろう。
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