10人が本棚に入れています
本棚に追加
「まあいわゆる欠陥物件という感じですかねえ」
ゆったり間の抜けた言い方に、こちらも「はあ」と間の抜けた返事になってしまった。
夏の終わり、秋の始まり。
といってもまだ肌を刺すような陽射しは名残惜しさを漂わせて私達の頭上に降り注ぐ。
暑さと寒さどちらを取るかと言われれば後者を取るだろう私としては、さっさとすっ飛んでほしいわけなんだけど。
9月上旬、まだまだ半袖が大活躍中の今日この頃、私はおおらかというかまあ人が良さそうなおじさんとデート、もといとあるマンションを訪れていた。
前を歩くおじさんは容赦無い陽射しに目を細め、しきりに扇子でほてった顔を扇ぐ。
抹茶色なのが渋い。
因みに私にもうちわをくれた。
多分来店したお客に無料配布している物だろう。
それをわざわざ持ってきてくれたこの人は、全く気の利くおじさんだ。さっきから大活躍中です。
二人してパタパタと顔を扇ぎながらエレベーターに乗り込む。
中はクーラーが効いていて、ひんやりとした空気が熱をスーッと引かせてくれた。
店から数十分、そこまで距離があるわけではないけど、日照りのコンクリートの上を歩くだけで汗がジワジワと滲み出てくる。
汗をかいた体には一段と空気の冷たさが染み入った。
「まあ住めないわけではないんですよ。ただ、ちょーっとした不都合ってやつなんですよねえ」
おじさん、正確に言えば不動産屋のややぽっちゃりした感じの中年おじさん。
……まあ、とりあえずそんなおじさんは絶え間無く話し続けてくれていた。
こちらが返事をしなくても十分話しが成り立つようなトークだから、無言に気まずさを感じる心配はまずなく、へぇとかそうなんですかとか、そんな適当な返事をするだけでここまでやってこられたのだ。
「えーっと何階でしたっけえ?」
「えっと……」
「ああー、六階でしたね!最近度忘れが頻繁して困ってるんですよーはっはっは」
ほら、こんな感じ。
最初のコメントを投稿しよう!