3/8
前へ
/10ページ
次へ
おじさんにはいくつか物件を紹介してもらった。 その中の一つが今から行く部屋なのだけれど、どうやら問題有りの物件らしい。 駅までは徒歩約10分ほど。 近くにはショッピングセンターや商店街なんかが有り、随分と立地条件はいいと思う。 問題があるとするなら、おそらく中身。 「まあ見るのはタダですしねえ」 ここを見てみたいと言うと、すんなりOKしてくれて、こうして暑い中付き合ってもらっている次第である。 ピンポーンとインターホンに似た音の後にゆっくりとエレベーターの扉が開く。 それと同時にムアッと暑い空気が私達を出迎えてくれて、思わず二人揃って「うわっ」とか声を漏らして、顔を見合わせて苦笑した。 通路は直射日光が当たらず幾分かはマシであるものの、暑いものは暑い。 自動で閉まるエレベーターが恋しくなった。 「あ、ここですねー。 閉め切ってますから中も暑いですよお」 管理人さんから借りた鍵でまだ静かなドアを開く。 606号室。両側にはすでに居住者がいるらしく、同じドアなのにその奥は全く違う空間が在るんだろうな、なんて考えながら玄関へ足を踏み入れた。 「どーぞご自由に見てってください」 おじさんは気休め程度に真っ先に窓を全開にして、少しでも篭った部屋に風を入れようとしながら私に促した。 とりあえず最初に入るのはダイニング。キッチンは一人暮らしの私には十分な広さだった。 そこまで料理好きというわけではない私には、最低限のことができる環境が整っていれば満足だ。 リビングの大きな窓からは日の光が部屋いっぱいに差し込み……とにかく暑い。 これが冬なら有りがたいものだ。上手くいけば昼間は暖房要らずかもしれない。 夏は……まあレースのカーテンを付ければ多少は和らぐだろう。 「あー、あっちの部屋も見てってくださいねえ」 おじさんは日が届かない玄関寄りの場所にどっかり座り込んで、扇子で扇いでくつろいでいた。 ……マイペースなおじさんだ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加