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おじさんにはいくつか物件を紹介してもらった。
その中の一つが今から行く部屋なのだけれど、どうやら問題有りの物件らしい。
駅までは徒歩約10分ほど。
近くにはショッピングセンターや商店街なんかが有り、随分と立地条件はいいと思う。
問題があるとするなら、おそらく中身。
「まあ見るのはタダですしねえ」
ここを見てみたいと言うと、すんなりOKしてくれて、こうして暑い中付き合ってもらっている次第である。
ピンポーンとインターホンに似た音の後にゆっくりとエレベーターの扉が開く。
それと同時にムアッと暑い空気が私達を出迎えてくれて、思わず二人揃って「うわっ」とか声を漏らして、顔を見合わせて苦笑した。
通路は直射日光が当たらず幾分かはマシであるものの、暑いものは暑い。
自動で閉まるエレベーターが恋しくなった。
「あ、ここですねー。
閉め切ってますから中も暑いですよお」
管理人さんから借りた鍵でまだ静かなドアを開く。
606号室。両側にはすでに居住者がいるらしく、同じドアなのにその奥は全く違う空間が在るんだろうな、なんて考えながら玄関へ足を踏み入れた。
「どーぞご自由に見てってください」
おじさんは気休め程度に真っ先に窓を全開にして、少しでも篭った部屋に風を入れようとしながら私に促した。
とりあえず最初に入るのはダイニング。キッチンは一人暮らしの私には十分な広さだった。
そこまで料理好きというわけではない私には、最低限のことができる環境が整っていれば満足だ。
リビングの大きな窓からは日の光が部屋いっぱいに差し込み……とにかく暑い。
これが冬なら有りがたいものだ。上手くいけば昼間は暖房要らずかもしれない。
夏は……まあレースのカーテンを付ければ多少は和らぐだろう。
「あー、あっちの部屋も見てってくださいねえ」
おじさんは日が届かない玄関寄りの場所にどっかり座り込んで、扇子で扇いでくつろいでいた。
……マイペースなおじさんだ。
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